対談 : UNDERCOVER 髙橋盾 とnonnative 藤井隆行 が語る OZISM (後編)
2024.06.17
対談企画 UNDERCOVER 髙橋盾 nonnative 藤井隆行 OZISM

後編 : それぞれの服作りの違い、そして“枯れる”美学について

Edit & Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Interview Portrait Photo by Kiyotaka Hatanaka
LOOK 写真提供 UNDERCOVER & nonnative

神奈川県葉山にあるUNDERCOVER 高橋盾のアトリエの室外デッキで行われた、nonnative 藤井隆行とのカプセルコレクション OZISMオジズム) に関する対談は、時折山々からウグイスの鳴き声も聞こえる中、リラックスした雰囲気の中で進行していた。

前編では葉山でのクリエイティブライフ、そしてOZISMの名称の元となった小津安二郎映画について二人に話を聞いたが、後編ではさらにそれぞれのカルチャー観、服作りの違い、そして年齢を重ねて行く中でのクリエイションへの想いについてにまで踏み込んでいく。

またインタビューの最後では、恒例となっているHONEYEE.COMがランダムな質問をぶつける「10 QUESTIONS」、今回は特別企画として、二人に聞いた「映画に関する10の質問」をお届けする。

“僕は服を見て服を作るタイプ、服を研究して作るタイプ”(藤井)
“服を研究したことなんか一回もない”(高橋)

対談企画 UNDERCOVER 髙橋盾 nonnative 藤井隆行 OZISM

― UNDERCOVERではさまざまなカルャーをテーマにすることも多いです。いずれもジョニオさんの「好きなもの」が前提になっていると思いますが、その対象は非常に広いですよね。

髙橋 : 広いですね。これは小さいときからそうです。

― そして日本カルチャーがそこまでお好きだったイメージがなかったのですが、意外にも。

髙橋 : 完全に小さい頃から日本のものが原点です。ただ、服を作る上では出しにくいんですよ、和物って。

― 近年“千利休”(2022SS MENS “ONCE IN A LIFETIME”)や黒澤映画の『蜘蛛巣城』(2020AW WOMENS)などはテーマとしてとしても使われましたね。

髙橋 : その2つは“和”であっても、ワールドワイドで見せても面白いだろうという視点はありました。『ルパン』Supreme(2023SS)でやりましたけど、あまり深く行っちゃったり、たとえばいくら自分が『家族ゲーム』が好きでも、絵的に難しいものはあったりするので、その辺は考えます。もちろん今後も色々出したいし、まだまだいっぱいあります。

― 逆に藤井さんは、個人としてはさまざまなカルチャーに興味はあっても、作る服にはそういう要素を入れないですよね。

藤井 : そうですね。旅でインスピレーションを受けたものをテーマにすることもありますけど、それはあくまで色とか素材の部分で。僕は「服を見て服を作るタイプ」というか、服を研究して作るタイプなんです。あと僕は“生活”も研究していて、クルマに乗るんだったら、自転車乗るんだったら、とかを考えて、作る服も変えるので。

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髙橋 : オレは服を研究したことなんか一回もないよ。藤井とかHYKE吉原(秀明)くんとかと話をしていると、メンズのそういう服を作っている人は、本当に服が好きだなと思う。そういう人から比べると、オレはそこまで服が好きじゃないのかもしれない(笑)。自分が着ているものは年中変わらないし、着飾りたい気持ちもないので。服はあくまで自分が表現する手段としてのものなので。

藤井 : だから(OZISMでの)ジョニオさんとの取り組みは面白いんですよ。

 違うタイプだからですね。

藤井 : あとUNDERCOVERには「ハイブリッド」というイメージもあって。“アートと服”だったりもそうですけど、組み合わせることってやっぱセンスじゃないですか。その部分が自分の場合、“アウトドアとファッション”みたいな部分かもしれないですけど。そこは繋がっている気がします。

コロナ禍が進化させた意識

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 ファッションにおいて、以前は日本的なアプローチって認めにくい部分がありましたよね。もっと西洋コンプレックスが強かったというか。それが服として出せるようになったのは、年齢的なものですか? もしくは時代でしょうか。

髙橋 : 両方から来ていると思います。年齢を重ねて自分たちが再発見して、すごく誇りを持てる文化だと気づいたタイミングと、世の中全般的に、それが行けそうな時代になったという両方。

藤井 : 僕は奈良出身だから、自分にとって当たり前すぎたのかもしれないけど、お寺とか神社とか、日本的なものが本当に嫌いだったんですよ。でもこっちに来て、色々見て知ることで変わってきました。

― OZISMは、お二人のそういうタイミングも重なって出せたわけですね。この葉山エリアに来ているということも作用しているかもしれないですが。

藤井 : そうですね。僕が奈良にいた頃よりもこの辺は田舎なんで。奈良が嫌で出て来たのに(笑)。

髙橋 : オレもそうだよ。(出身の)群馬が嫌だったわけじゃないけど、当時は都会に行かないと何にもならないなっていうのがあったし。でも、自分たちが紹介したいものとか、アピールしたいものは今の東京にはない。だから東京じゃないこういう場所で過ごすことで見えてきたものは結構大きい。コロナ禍の静かな時期に京都に行ったり、いろんなところを見て回った時に、見えてきたものも沢山あったし。

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― コロナ禍の時期はどこに行っても静かでしたよね。

髙橋 : 改めて考えると、コロナはすごく大変だったけど、むしろ「前に進めた」なって思います。ああいう機会があって、さらに自分たちのルーツとか生活を見直せた。それがこのOZISMとか、日本を下地にしたものを作ることに繋がったし、自分の場合、器とかに興味が行ったのもコロナがきっかけだったし。あとはこういう静かなところで作業することも、コロナがきっかけだと思います。

藤井 : 僕もあの時期にすごく吸収させてもらいましたね。ジョニオさんと一緒に京都に行って、「河井寛次郎記念館」に行ったりして、「知っていたけど掘っていなかったもの」にも色々気づきました。

髙橋 : すごく奥が深いよね。西洋的なものの奥の深さより、日本的なものの奥の深さが感じられるのは、小さい頃に何か見ていたとか、日本人として潜在的に分かっていた部分もあるんだろうけど。

― 河井寛次郎も小津安二郎に通じるパーマネントさ、モダンさがありますよね。

髙橋 : かなりアヴァンギャルドなことをやっているし、全く古臭くないですよね。だから何度も(「河井寛次郎記念館」に)行ってしまうし、再発見が多めなんだよね。

“枯れ”ることで生まれるもの

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― OZISMの服は渋さも大きな魅力だと思うのですが、お二人の中では、「枯れるカッコよさ」みたいな部分も提示している意識はありますか?

髙橋 : それを意識して作っているわけじゃないですけど、自分も今年55歳で、もう人生逆算期になってきてるじゃないですか。でも改めて見廻すと、先輩たちとか親とか、色々苦労しつつも楽しんで暮らしている人はたくさんいて。そういう人はいろんな経験をして余裕もあるし、カッコいい。自分も年齢的には近づいているから、そのカッコよさをどこかで伝えたいなと思いつつ、ブランド的には若い人に向けなくちゃいけないという難しさもあるんです。でも、そういう風に枯れてきた人間が、若い人に向けて何かを作るのは面白いと思う。だから自分も40代半ばくらいから、むしろ色々やり易くなってきたんです。

― 肩肘を張らなくてもいいというか。

髙橋 : 張っても面白いし、張らなくても面白いというか。周りの見え方が、ちょっと“お年寄り扱い”になってくる(笑)のが楽ですね。

― その部分を出せているのがOZISMだったりする。

髙橋 : うん。もちろん本気だけど、チカラを抜いて作っているものだから。パリのショーとかはどうしてもチカラは入るじゃないですか。そういうものとは全然違うベクトルの、「枯れていく」方向性の物作りではありますね。

藤井 : OZISMで一緒に2回パリに行っていますけど、(UNDERCOVERのコレクションとは)すごいコントラストですよね(笑)。

髙橋 : あれはあれで自分がすごいやりたいこと。すごく気合いを入れて、入り込んで作るもの。それも自分の重要な一部。だけど歳をとってきて、こういうもの(OZISM)を作るのも自分。若い時はチカラを抜いて作ることが出来なかったから、出来るようになってきた楽しさはありますね。

藤井 : 若いのにチカラ抜いて作るって、よく分かんないですもんね(笑)。

髙橋 : でもさ、最近は若くしてフラットな、悟ってる感じのデザイナーっているじゃん。ずっとチカラを抜いているというか。そういう人たちってすごいなと思う。もっと自分はギラギラしていたし。

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― 藤井さんは割と若い時からそういうタイプに近いのではないですか?

藤井 : いや、昔作ったものを見ると、やっぱり“夜中まで考えて作った服”だな、みたいなのもありますよ。「いま見るとやたらポケットが多いな」とか(笑)。

― お二人のように、ある程度年齢重ねて、さらに進化した物作りが出来ているというのは、若い世代でも励みになる人も多いと思います。

髙橋 : 自分の先輩たちもすごくカッコよくやっているんだけど、その人たちとファッションの話なんて全然しないんだよね。本当に興味あんのかなって思うし(笑)。だけどもう生き方がカッコいいので、そういう人の作るものがまた違う見え方になってきているのが面白い。

藤井 : 僕も若い人に比べたら長いですけど、続いている人はやっぱり理由があるんですよ。特にファッションは。

髙橋 : ファッションは続けるのが本当に大変だと思いますよ。オシャレなだけでもダメだし。「ファッションが天職」という人だけが続けられるだろうから、そういう人がある程度枯れてきたときに作るものっていうのは面白いと思うんだよね。

HONEYEE.COM
10 questions to JUN TAKAHASHI & TAKAYUKI FUJII

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  1. 一年で観る映画の平均本数は?

高橋 : 多い時期は300本とか観ていたかも。最近は忙しくて、多分100本くらいかな。

藤井 : 僕は飛行機の中とかでも観るのも合わせると、50本くらいかな。

2.近年観た映画で面白かったのは?

高橋 : 結構多いですよ。PERFECT DAYS(ヴィム・ヴェンダース監督)、『マザー!』(ダーレン・アロノフスキー監督)、『鑑定士と顔のない依頼人』(ジュゼッペ・トルナトーレ監督)。『悪魔を見た』(キム・ジウン監督)は韓国映画の中でもかなりハードコア。ここ数年はかなり韓国映画観ました。

藤井 : 僕も『PERFECT DAYS』。あとフランス映画でインテリアデザイナーのアイリーン・グレイを取り上げたドキュメンタリー『アイリーン・グレイ 孤高のデザイナー』(マルコ・オルシーニ監督)は3回くらい観ました。

3. もっとも好きな海外映画の俳優 / 女優は?

高橋 : これ難しいなあ。誰とも絞れないかも。

藤井 : ゲイリー・オールドマン は好きですね。

4 . もっとも好きな日本映画の俳優 / 女優は?

高橋 : 松田優作さんはずっと好きな俳優です。

藤井 : 竹内力が好きなんですよ(笑)。あのヤクザ映画の中の職人っぽいところが。

5 . もっとも好きな海外映画の監督は?

高橋 : スタンリー・キューブリックデイヴィッド・リンチヴィム・ベンダースジム・ジャームッシュも好きだし、コーエン兄弟も好きだし。なかなか一人に絞れないです。

藤井 : リュック・ベッソン監督の作品は好きな映画が多いです。

6 . もっとも好きな日本映画の監督は?

高橋 : 小津安二郎のこと答えているのに悪いけど、一番は黒澤明監督かな。「寅さん」シリーズの山田洋次監督も確実にトップ5に入るなあ。

藤井 : 僕も山田洋次監督。あと宮藤官九郎が監督した作品も好きです。

7 . 一番好きな映画のサウンドトラックは?

高橋 : 仕事中は結構『ベルリン天使の詩』のサントラを聴きます。あとは『ルパン三世 カリオストロの城』とか、『時計仕掛けのオレンジ』も聴いてる。

藤井『魔女の宅急便』は子供が小さい時によく聴かせました。中学のときにCDを買ったのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のサントラ(笑)。

8 . 一番好きな映画シリーズは?

高橋 :『男はつらいよ』(山田洋次監督)ですね。あとは『トラック野郎』(鈴木則文監督)、『タフ』(原田眞人監督)、『駅前シリーズ』も好き。

藤井『男はつらいよ』も好きですが、『ミナミの帝王』『仁義なき戦い』とか、結構ヤクザっぽいものが好きですね。『男はつらいよ』は特に29作「寅次郎 あじさいの恋」が好き。

9 . つい見返してしまう作品は?

高橋 : 『ルパン三世 カリオストロの城』(宮崎駿監督)は、もしかしたら一番好きな映画かもしれない。あと優作さんの出ている『野獣死すべし』(村川透監督)。ともに100回ずつくらい観てます。

藤井 : 『ゴッドファーザー』(フランシス・フォード・コッポラ監督)、『グラン・ブルー』(リュック・ベッソン監督)、『レオン』(リュック・ベッソン監督)。ベタな作品多めですね(笑)。基本的に海外に行きたくなる映画を観る傾向にあります。

10. いま一番公開を心待ちにしている作品は?

高橋  : あまりチェックできていないけど、『シド・バレッド ひとりぼっちの狂気』は観たいかな。

藤井 :  Netflixドラマになっちゃうんですけど、『ヒーローではないけれど』『季節のない街』

[INFOMATION]
OZISM
https://undercoverism.com/
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the nonnative shop
coverchord Online 

[編集後記]
前後編に分けてお届けしたOZISM対談。お二人の関係性、そしてロケーションもあって、とてもリラックスした雰囲気で行われた取材だった。今回OZISMで二人を取材するに際し、かつて観た小津安二郎の作品を何作か見返したり、観ていなかった作品を鑑賞した(『東京物語』を演じた時の笠智衆さんが現在の自分と同い年だったことに衝撃を受けた)。OZISMと小津作品がダイレクトに繋がっているわけではないが、お二人の話を聞いて色々と納得する部分は多かったので、OZISMが気になった人には是非観ていただきたい。(武井)