“ファッションの文脈の中に小さな支流を作りたい”
Edit&Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Photo by Kiyotaka Hatanaka
Movie Directed by Ryoji Kamiyama
「どうしてこんなデザインが思いつくのだろう?」。meanswhileというブランドの服を見る機会があると、しばし考えこまされてしまうことがある。このブランド、見た目自体はオーセンティックだが、どのアイテムも普通であることがない。機能的な部分において必ず“どこか気が利いている”のだ。そして時にこれまで想像もしなかったデザインを投げかけてくるが、その一方で「日常着である以上、服は衣装ではなく道具である」とコンセプトに掲げている。meanswhileのデザイナー・藤崎尚大に、一度じっくりその意図を聞いてみたかった。
“日常着である以上、服は衣装ではなく道具である”
東京・駒澤公園の近く、世田谷特有の入り組んだ路地を入った住宅街。都心でもなく、このマニアックなロケーションに、TOKYO FASHION AWARD 2020を受賞したブランドmeanswhileのショップは存在する。営業日は金土日のみ。そしてここにデザイナー・藤崎尚大のデザインアトリエもある。取材チームが到着するとシャッターを開けて登場した藤崎は、慎重に言葉を選びながらも丁寧な語り口でインタビューに応じてくれた。
― なぜこの分かりにくい場所にショップを?
藤崎尚大(以下 F) : 以前この近くに住んでいたので、最初は事務所や倉庫として使っていたのですが、少し手を加えて直営店にしました。ここは知っている人が目がけてきてくれる場所ですね。この先また店を作るにしても、都心に店を出そうという気持ちもあまりないし、自分の生活圏の近くに作りたいです。
― meanswhileは「服は衣装ではなく道具である」と掲げる珍しいファッションブランドです。そういう考えは昔からですか。
F : そこには“日常着である限り”という枕詞が付くのですが、結構いろんなことが絡んでくるんです。僕は学生時代にウェイディングドレスの手縫いのようなことをやっていたのですが、そこでいわゆる“衣装”的な服の作り方を経験しました。一方でスポーツウェアやアウトドアウェアの機能的な部分も好きだったので、自分でブランドを立ち上げる時には、その両方から成り立った考え方のものを作りたいと思ったんです。
― そういう意味では、ウェディングドレスのような“衣装”に対する反発のような気持ちもあった?
F : いえ、そうではなくて、ファッション業界や市場のことを考えたときに、なぜいまファッションが斜陽産業になっているのかという理由の中に、“衣装”という部分が大きく絡んでいると思ったことが起因しています。
― と言いますと?
F : 流行を作って、洋服に賞味期限をつけるような売り方というかビジネスモデルを長く続けてきた結果、ファッションを“中身のないもの”として一般の人が認識してしまった気がするんです。そういう衣装的な売り方ではなく、本来の“衣食住”に数えられるような日用品・道具として洋服を提案し、そしてそれをファッションの市場でやっていきたいと考えたんです。
― その考え方は分かります。自分も服は長く着るタイプなのですが、人から「懐かしいのを着ているね」と言われると、「時代遅れを着ているね」と言われているような、複雑な気持ちになります。
F : 興味本意で聞きたいんですけど、武井さんが買うのはどんな服ですか?
― シーズン性が多少強くても、これなら長く着られるだろうな、と予想できるものですね。20年くらい着ているJUNYA WATANABE MANの服もありますよ(笑)。
F : 20年はすごい。
遠回りな機能性の中にファッションがある
―meanswhileでそういう点では常に「長く着られる前提」のモノづくりですか。
F : そこは両軸あって、道具として、プロダクトとしての服を突き詰める自分と、ファッションの市場で勝負をしたい自分がいます。
― それはある種の矛盾を抱えているということですか?
F : 便利なものを提供したい、機能的なものを売っていきたいという気持ちも当然ありますが、それよりブランドの理念とか価値観を打ち出したい気持ちが強いですね。アウトドアウェアの機能性のような考え方とはまた違う機能性の表現をしているところもあります。
― 具体的にプロダクトとしての例はありますか。
F : 2022FWの新作で、フリースウェアの裾にウインドブレーカーがしまってあって、それを出すと重ねて着れるというアイテムを作っているんです。フリースは暖かいけど防風性が弱い。そこにウインドブレーカーを上から重ねるという単純な発想なのですが、今なら防風性を持ったフリースの素材を使えばいいだけなんです。そこをあえて遠回りして、迂回する道筋を選ぶことが“デザイン”ではないかと。遠回りな機能性の中にこそファッションがあるという考え方ですね。
― これは展示会で見た時に“発明”だなと思いました。思いつきそうで思いつかない、こういう発想はどこから生まれるんですか。
F : 設定したゴールに向けて真っ直ぐな道を選ぶか、迂回するか。その道が無数にあることを理解しているので、「この機能を表現するのはこれだよな」と普通の人が思うところを一旦立ち止まって、いろんな道を模索するんです。結局辿り着くゴールはみんなと同じなのですが、そういう物事の考え方が癖になっているので、他の人より発想の引き出しは多くなるんだと思います。
自然の摂理の中から生まれるアイデア
― アウトドアキャンプにもよく行くそうですが、そこから得るものもありますか?
F : 田舎で生まれ育ったのもあって、自然が好きなんですね。父親が美術作家なのですが、僕がこういう道を選んだ時に一言だけ言われたのは、「自然を見るようにしなさい」でした。自然というのはなるべくしてなった形があり、全部に理由があるので、そこを観察・考察しなさいと。
― 自然を見ることで、どういう発想が生まれるのですか。
F : 例えば「なぜこの木はこういう形状になっているのか」、みたいなことですが、そういうことを日々積み重ねていくと、デザインをする時に無数に埋まっている引き出しがポンと開くというか、紐づくようなことがよくあります。自然の物事の成り立ちが、どこかデザインにも生きて来るんですよね。
― それも具体的にプロダクトになったものはありますか?
F : 以前に電動ファン付きのウェア“空調服”とコラボしたのですが、暑い時にあえて服を重ねて着るという行為が面白かったんです。そういうシーンって夏の雨の日もレインウェアを着るから似ているな、と考えて、空調服のレインウェアを作ることを思い付きました。ただ、ファンを外側に出すと雨を吸い込んでしまうため、そうならないデザインを考えついたので、あれは自分でも“発明できた”と思いましたね。
― 工事現場の人などに向けて開発された“空調服”とコラボレーションするという意外性もそうですが、これも発明的発想ですよね。
F : まあ、これも含めて結構ニッチなモノづくりをしている自覚はあるんです(笑)。でも100人に1人、1000人に1人くらいには深く刺さるものは作れていると思います。でもそれが日本だけではなく、世界まで広げると、結構な人数の人が求めているものなのじゃないかなと。
ファッションの文脈の中に小さな“支流”を作りたい
― いま日本国外からのmeanswhileに対する反応はいかがですか?
F : 実はいま売り上げ比率では海外の方が増えてきています。それは嬉しいことですね。
― meanwhileって、“その間に”みたいな意味ですよね。
“一方、こちらでは”みたいな意味があって、“meanwhile in Japan”といえば、“一方、日本では”みたいな使い方をします。物事の本筋とは別軸にあるブランド、みたいな意図を込めているのですが、一言で説明できないので、あまりそこは浸透しないですね(笑)。
― でも藤崎さんのデザインの考え方を聞いていると理解できます。先ほど、機能性だけじゃなくファッションの部分を共存させたいというお話がありました。藤崎さんはこれからの“ファッション”はどうあるべきだと思いますか?
F: それはブランドを始めるときにもう一つの結論が出てしまったのですが、今のファッション業界が直面している問題は根深すぎて、僕一人がやってもどうしようもない、という諦めだったんです。それがメインストリームの大きな川の流れだとしたら、小さくて細くてもいいので新たな支流を引きたいと。それもmeanswhieというブランド名にも表れているのですが。
― すごく繋がりました。ブランド名自体にも“支流”という意味が含まれているんですね。
F : こうやってお話をすると伝わる部分はあるので、僕自身がもっと前に出ていかないとな、と考えさせられますね(笑)。
― ちなみに東京ファッションアワード2020の受賞は自信になりましたか?
F : そうですね。自信にはなりました。でも元々獲るつもりで始めたので、順調に行っているという確認にもなったし、同時にプレッシャーにもなりました。
― 次のステージで考えていることはありますか?
F : LVMHアワードとかファッションプライズは目標というか、挑戦はしたいと思っています。
― ただ、ああいう賞のためにはランウェイもやらなければいけない。前回の東京でのショーは素晴らしかったと思いますが、そこはどう向き合いますか?
F : ショーは一度経験して大変さも楽しさも分かって、またやりたいなとは思うんですけど、ショーをやることを目標にはしていないので、必要なタイミングが来ればやればいいなと思っています。
藤崎尚大 Naohiro Fujisaki
ファッションデザイナー
1986年生まれ。服飾大学卒業後に2社のアパレルメーカーにて経験を積み、2014AW シーズンよりmeanswhileを始動。 「日常着である以上、服は衣装ではなく道具である」をコンセプトに、ファッションの持つ表面的で無稽な部分に、道具としての機能を追求したプロダクトを展開する。 2016年に東京ファッションアワード「新人デザイナーファッション大賞プロ部門」において最高位の賞を受賞。2019年にTOKYO FASHION AWARD 2020を受賞。
[編集後記]
展示会で商品を見るたびに、このデザインがどうやって生まれて来るのかを聞いてみたかったブランドがmeanswhileだった。今回デザイナーの藤崎さんとじっくり話をして、このブランド名に託された想いや、その思考プロセスまで聞くことができた。そして、聞けば聞くほどその服は強い吸引力を持ち始めたのだった。(武井)