空山基 インタビュー 描きたいものを創り続ける
2023.04.28

衰え知らずの創作への原動力、その理由

Edit&Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Photo by Yasuyuki Takaki

アーティスト 空山基の3年ぶりとなる大規模な個展「Space Traveler」が、2023年4月27日(木)から5月28日(日)まで所属ギャラリーのNANZUKA UNDERGROUND、NANZUKA 2G、3110NZ by LDH kitchenの3会場で同時開催されている。今回の個展に際し、HONEYEE.COMとしては2年振りに空山基にインタビューを敢行。常識やタブーに挑みながらも衰えることのない創作への姿勢、そして鋭く豪快で、ユーモアに溢れたその言葉の数々をお届けする。

描きたいものは、“向こう”からやってくる

空山基 Hajime Sorayama

― 前回のNANZUKAにおける展示は「Sex Matter」と題されたものでしたが、今回の「Space Traveler」において、モチーフや心境に何か変化はありますか。

空山 : ありません! ワタシが勝手に好きなものを描いて、それをNANZUKA(キュレーターの南塚真史)がまとめているだけですから。自分の絵にタイトルを付けたことすらないです。文字で説明したら負けだと思っているので。

― では今回も何かテーマがあったわけではなく。

空山 : その時に描きたいものだけを描いていますからね。その次に何を描こうっていうことすらないんです。長い間やっているので、後ろを振り返ると一本の道になっているっていう自覚だけはありますけど。志もなく、ただ好きな絵を描いています。

― どのようにして「こういう作品を描こう」と発想されるのですか?

空山 : “向こう”からやってくるんですよ。「描いてよ」って来るから、「そうか、そうか」って描き始めると、そのモチーフがまた「ああして、こうして」と言ってくる。「しょうがねえなあ」って言いながら“絵の奴隷”になるんです。それが面白いからやっているし、楽しくてしょうがない、気分転換は他の絵を描くことくらいですよ。

メジャーとマイナーを行き来する

空山基 Hajime Sorayama

― セクシーロボット作品は1978年から続く空山さんを代表するテーマです。南塚さんに以前取材した時には、空山さんがセクシーロボットを描くことに消極的な時期があったとのことですが、なぜそのようなモードだったのか、そしてなぜまた改めて描くようになったのでしょうか。

空山 : 飽きちゃうからですよ(笑)。当時こういう作品はマイナーでしたから。マイナーなところは面白くないの。ワタシは本来ものすごい“出たがり”だから、個展になんて昔は何の興味もなかった。ここ(NANZUKA)で展示やったって、ぜいぜい数千人でしょ。今はSNSとかもあるけど、当時はそんなのもなかったし。アメリカの雑誌『PENTHOUSE』で10年くらい(ピンナップ作品を)描いていたけど、それは日本の雑誌とは比較にならないくらい部数があったから。でも今は個展で原画や作品を売っている方が楽だね(笑)。

― 現在の空山さんの知名度があれば、個展をするだけで十分に情報が伝わる部分もありますね。

空山 : 本当はメジャーなところとマイナーなところの両方をやりたいんですよ。ハイエンドなところをやると、マイナーな方のカサ上げにもなるし。マイナーなところでやるのは、自分の趣味でマニアックなもの、それも好きでやっているものだけど。例えば先週まで“緊縛”がテーマの展示(『The Essentials of KINBAKU ART −戦後日本の責め絵展−』 Vanilla Gallery)にも作品を出していたけど、その世界の分母はめちゃくちゃ少ないんです。でもハイエンドでメジャーな展示をすると、そっちの世界のカサ上げにもなるからね。

空山基 Hajime Sorayama

― そちらも空山さんの好きな世界であるわけですよね。

空山 : ここに展示してある作品だってポルノですよ。基本にあるのはエロスだから。ワタシは性欲なんて食欲と同じだと思っているし、両方とも必要なものなんですよ。でもなぜか性の方だけ否定している世界は居心地が悪い。エッチなものをメジャーなところに出せば、エロスの方もカサ上げできるし、みんな素直になれるようになると思っている。自分ももう歳になって、多少世の中を動かせるようになったから、そういう姿勢で、しかも露骨に表現するようになりました。

40年で“時代が付いて来た”

空山基 Hajime Sorayama

― セクシー路線は長年の空山さんのテーマですよね。

空山 : だって人間みんなそうじゃん。エッチが嫌いな人なんて見たことないよ(笑)。それをなぜ卑下したり、隠すのかが分からない。建前としてはそういう風にしないと社会がまとまらないからなんだろうけど。ワタシなんかがそういう“正論”を言っちゃうと調和を保てないんだろうね。でも文化っていうのはそういうおかしいところを突っ込んでいいはずなのよ。だってカウンターなんだもん。

― この10年、特に5年くらいの間で、空山さんの世界への知名度や影響力が上がってきたように感じます。

空山 : 時代が付いて来たんですよ。だって最初にセクシーロボットを描いたのは1979年の作品だから、40年以上前ですよ。これはサントリーの広告から生まれた作品ですから。当時はイラストレーションだとか広告業界でしか花火を上げられなかったけど、ようやく世の中が付いて来たんです。

空山基 Hajime Sorayama

― それがアートとして受け入れられるようになったわけですね。

空山 : それは勝手にどう解釈してもいいんじゃない? ワタシが好きな絵を描いているだけだから。落書きと言われようが、ポルノだろうが、何を言われても何とも思わない。自分の座標軸だけでしか動いてないから、そんなの知ったこっちゃない。発表するときだけは、場所とか媒体で社会性を考えるようにはしているけどね。

― 空山さんが40年以上前に描いたロボットやセクシーロボットは、その後の工学的な分野にも影響をしていると言われますよね。

空山 : そんなことないですよ。だってワタシの作品はフィクションなんだもん。アニメだとかでロボットを動かそうと昔からやってますけど、あんな風に動かないからね。ガンダムだってあれ、動かないから(笑)。関節にユニバーサルジョイントを使ったって、そもそも金属は伸び縮みしません。ワタシの場合はそこに皮膚とか脂肪とか柔らかさを暗示しているけど、最初に構図があって、そこに構造を付け足しているだけ。実際のロボットで人間のような有機的なものは不可能なんですよ。

空山基 Hajime Sorayama

― ではもう描いているときからある種割り切って描かれているわけですね。

空山 : 当然ですよ。いかに騙すか、勘違いをさせるかっていう発想です。

― あくまでも描かれているものは、“願望”。

空山 : そうです。『ジュラシックパーク』なんかも嘘ばかりだからね。プテラノドンっているでしょ。あれは攻撃する部位を持っていないから、現実には腐肉か恐竜のウンコとか、せいぜい魚くらいしか食ってなかったってアカデミズム的には言われているけど、それじゃ映画が面白くならないから人を襲ったりしている。でもエンターテイメントとか文化っていうのは、そうやって嘘をついてもいいのよ。

作品が“完成”したらつまらない

空山基 Hajime Sorayama

― ちなみに2023年に入ってから、Chat GPTの影響もあって、にわかにAIがホットワードになっています。例えば空山さんのこの立体作品にAIを搭載したらいよいよ……と考えてしまうのですが。

空山 : 所詮AIが文章を作ったって、5段階評価の2から4くらいまでしかできないですよ。オリジナリティのあることなんて一切できないし。所詮人間が打ち込んだソフトの中で暴れるくらいしかできない。ソニーのアイボを作った時に、ある芸能人が「アイボにモーツアルトを聴かせると機嫌が良くなる」とか言ってたけど、ソニーの開発者は「そんなソフト入れてねえよ」って笑ってたよ(笑)。

― じゃあ、空山さんの作品にAIが入って喋り始めても。

空山 : どうせ演出というか、送り手がいるわけだから面白くないでしょ。だって世の中、「送り手」と「受け手」しかいないじゃん。ワタシみたいに長いこと送り手側の仕事をしていると、映画を観たって冷めて鑑賞できないですからね。

空山基 Hajime Sorayama

― 造形的なお話に戻るのですが、今回の立体作品の完成度も非常に凄いですが、これはどのように作られているんですか?

空山 : 合金屋さんとのコラボレーションですね。でも“完成度”って言われても、自分の中では“完成”していないですけど。

― それはどういうことですか?

空山 : まだまだ直したいところはいっぱいあるんですよ。でも時間の問題もあるし、キリがない。レオナルド・ダ・ヴィンチが『モナ・リザ』を手元に持ち続けて30年くらい直してたって話あるでしょ。あれですよ。でも完成しちゃったらつまらないんです。人の手に渡ったらもう直せないし、仕方がないね。それもあってワタシは昔の作品見たら恥ずかしいと思っちゃう。

空山基 Hajime Sorayama

― そういうものなのですね。

空山 : だって文章だってそうでしょ。昔書いたもの見たくないでしょ?(笑)。

― そうですね(笑)。

空山 : ワタシは作り終わった作品には興味ないんですよ。いま描いているもの、常に“ネクストワン” が一番面白い。ただね、昔の自分の作品を観ると、エネルギーでは負けるんです。センスの部分は恥ずかしいんだけど。だから最近は“終活”みたいな感じで、昔の作品をもう一度プリントして気になるところを直した作品を作ったりしています。

好きだからただ描き続ける

空山基 Hajime Sorayama

― ちなみに今はどのような制作に取り組まれているのですか。

空山 : 今は彫りよしさんという彫り師の人とコラボで、「縛り」の絵を描いてます。今回はロボットは関係なくて、縛った時の肉の柔らかさとかを表現する作品。ロボット描いても人間を描いても、ワタシの場合は女性崇拝ですから。

― 女性に対する飽きとか衰えは来ないですか?

空山 : これはもうビョーキですね。厨二病でね。ワタシ棺桶に入っても、同じこと考えていると思いますよ。あのね、いやらしいことを考えていると、フィジカルがそこそこ付いてきますよ。美味しいものを食べたいのと同じだから。

空山基 Hajime Sorayama

― 空山さんの場合は、作品を描くために女性を求めているわけではなく、両方を兼ねているわけですね。

空山 : あんたこんなに人が多い場所でナニを聞くの?(笑)。本当のこと言ったらインターポールにタイホされちゃうから言えないよ!(笑)。

― 最後になりますが、空山さんのモチベーションがこんなにエネルギッシュに続く理由を教えていただけますか。

空山 : 好きだから。別に世の中に合わせているわけじゃないし、人の言うことも聞かないし、楽しいことをやっているだけ。昔、なんで描いているか分からなくなったときに、ある尊敬する人に聞いたら、「それより楽しいことがないからですよ」って言われて吹っ切れて、迷いがなくなったかな。

― それはいつ頃の話ですか?

空山 : 30年くらい前かなあ。

― 30年以上「好きなこと」に没頭できるということが、単純に羨ましく感じてしまいます。

空山 : 昔、広告とかイラストの仕事している時に、つまんねえミーティングだな、つまんねえ仕事だなとは思ったんだけど、描き出すと楽しいんだよ。やっぱりビョーキだね。描いている時は時間の感覚もないから。アトリエでは1時間おきに時計が鳴るようにしているんですよ。そうやって教えてくれないと、何時間でも書き続けてちゃう。乗って描いてて、自分は天才だなと思いながら翌朝見ると絵がぐちゃぐちゃ。だから自分をクールダウンさせるために時計があるし、家にも帰る。奥さんのいる家に帰って、「一般の人はこういうことを考えてるのか」とか思いながら、ネコのウンコ掃除したり。もう修行ですよ、家に帰るのが!(笑)。

空山基 Hajime Sorayama

Profile
空山基 | Hajime Sorayama 

1947年愛媛県生まれ。広告代理店に勤務したのち、1971年よりフリーランスのイラストレーターとして活躍。1978年にサントリーの広告でロボットを描き始め、エロスをを追求した女性のロボットを描くようになり、そのオリジナリティで広く知られるようになる。1983年「Sexy Robot」出版。1999年にはSonyのAIBOのコンセプトデザイン、2001年にはエアロスミスのアルバムカバーを手掛け、近年もキム・ジョーンズと手がけたDior Menとのコラボレーションで大きな話題となる。ファッションとのコラボレーションも多数で、その人気はますます世界に拡大中。

http://sorayama.jp/ja/
https://nanzuka.com

[編集後記]
パワフルだった。その緻密な作風と対照的に、奔放で豪快な方であることは他のインタビューなどを見て分かってはいたが、それ以上のエネルギッシュさに圧倒された。インタビュー中に何度も「好きだから描いている」という言葉が出てきていたが、その迷いの無さは空山さんの後ろで輝く立体のセクシーロボットと重なって、とにかく眩しく感じられた。(武井)