東京・代々木に生まれた複合型ストア。Graphpaper Tokyo、Vektor shop®、寄を語る
Edit&Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Photo by TAWARA(MagNese)
alpha Co.,Ltdの代表でありクリエイティブディレクターの南貴之が、2023年6月3日(土)に東京・代々木エリアに新たな複合型店舗をオープンした。今や東京を代表するブランドの一つにまで成長したGraphpaper のフルラインナップが揃う 「Graphpaper Tokyo」が2Fの広いフロアに完成し、1Fには“食とカルチャーのセレクトショップ”として、南を中心にしたスタッフが“バイイング”したフードとドリンクが角打ちスタイルで楽しめる「寄(よせ)」、そして新業態となる音楽やアートのカルチャーストア 「Vektor shop®」という構成になっている。また、デンマークのクリエイティブチーム FRAMAによるアポセカリーや家具が並び、日本のインテリアデザイナーである内田繁の家具もオーダーできるなど、“南貴之の好きなもの”が2つのフロアにてんこ盛りで揃えられている。
場所は代々木3丁目。代々木の駅からも距離があり、小田急線の参宮橋が最寄りという、商業エリアとはかけ離れたロケーションだ。用がなければなかなか足を運ばないこの場所に、衣食住+遊を体現するストアをオープンした経緯と想いを聞きに行った。
街のノイズになるような店は作りたくない
― ここはいつ頃から構想を?
南 : 構想はもう何年も前です。ある程度自分たちのブランド(Graphpaper)が認識され始めたくらいの頃から、ブランドだけのショップをやってみたいと思っていました。最初に東京に作りたかったのですが、物件が全然見つからなくて、仙台、京都、名古屋と地方が先になってしまったんです。大きい場所が良かったし、普通は青山とか骨董通りとかに出しがちじゃないですか。イヤなんですよ、それは。
― それはなんとなく分かる気がします。
南 : Graphpaper Aoyamaを神宮前のあのヘンなところ(※セレクトショップとしてのGraphpaperは、神宮前のかなり奥まった場所に存在する)で始めて、もう10年くらい経っているんですよね。いつの間にか周りにお店も増えましたけど、そうやってリアルなお店づくりが結果的に街とかカルチャーを作るというのは、僕の中でベースにあるんです。
― この場所(代々木三丁目)にした理由は何だったのですか?
南 : 近くの幡ヶ谷も結構盛り上がっているし、上原あたりも人気だし、どこかないかなと思っていたらここが出て来たんです。僕は不動産マニアなんで(笑)、いつも物件サイトを見まくっているんですよ。正直建物は中途半端だなと思ったけど、広さはあるし、場所もいわゆるファッションのエリアじゃないので、逆にいいのかなと思って決めたのが去年ですね。
― Graphpaperだけのお店にせずに、複合店にしたのはなぜですか。
南 : こういう(用がなければ行かない)エリアなんで、僕だったら洋服しか置いていないお店には絶対行かないなと思って。だからかねてから1回やってみたかった業態である飲食とレコード屋さん、あと僕はオーディオ好きなんで、いい音が鳴るお店を合わせてしまおうと。
― よく見ると、外観はあまり手を加えていないですよね。
南 : 最初は外観をいじっていこうかなと思っていたんですけど、やっても中途半端になるだけだなと思って、あえて外は何もしていないんですよ。1LDKを作った時からそうですが、街のノイズになるようなものを作りたくないんです。昔からあるような、いつの間にかそれがそこにあるのが普通になるような店にしたい。この辺はお住まいの方も結構いらっしゃって、商業エリアとの絶妙な塩梅を持っている街だなと思っていたので。同時にここに縁がない人にとっても「わざわざ行くお店」にしたかったんです。
Graphpaperの誇り
― 本心はどうか分からないですけど、最初Graphpaperのウェアを作った頃は、「これはあくまでショップスタッフのユニフォーム」とおっしゃっていましたよね。それがだんだんラインナップも広がって、ここまで成長しました。
南 : でも基本スタンスは僕の中では変わっていなくて、“普通の服”を作っているつもりなんです。ただ、服を作ってくれている産地の人、縫製現場の人、生地を織る人たちが本当に素晴らしい人たちばかりで、僕らはその人たちに支えられて今がある。何か返したいなっていうのはずっとあって。その人たちにいいものづくりをしていくためには、僕らがある程度の数やビジネスをちゃんとしてあげないといけない。僕らが出来るのは、作っていただいた素晴らしいものをこういう場所でちゃんと伝えるだけですから。そこにある程度できるチカラがついてきた感じだと思います。ブランドは常に進化し続けるべきですが、変化しちゃいけないところは変えずにやっていきます。
― 神宮前のGraphpaper Aoyamaは今度どうなっていくのですか。
南 : やっぱりあそこはキュレーション型のコンセプトショップです。国とかファッションとか工芸とか、取り扱うすべてを並列化したいと思っていて。近年はちょっとGraphpaperの服が増えて健全じゃないなと思っていたので、今回ここができたことでAoyamaとTokyoをうまく棲み分けしたいと考えています。名前が一緒なだけでコンセプトが違うんです。まあ、僕が面倒くさがっちゃって、名前を一緒にしちゃったのが原因なんですけど(笑)。
― じゃあ将来的に向こう(Aoyama)の店の名前を変えるとか。
南 : いや、今の所ないですね。名前を考えるのも面倒臭いので(笑)。
― しかしこの店舗もかなりの広さです。ここまでラインナップが広がっているんだと実感しました。
南 : いやいや、まだまだ。ブランドとして認知してもらうためにも、これだけの場所が必要だったんです。まだ“セレクトショップのオリジナル”と思われている方も多いと思います。ここに関してはわざわざ来ていただく場所なので、パーソナルオーダーも出来るようにしました。今はシャツだけだけど、今後スーツも出来るようになります。パックTも色やサイズなどの組み合わせをオーダーできるようにしたり、アップルウォッチのバンドもオーダーできるようにしたり。「コレで、こんなのないの?」というお問い合わせも多かったので、それを叶える場所にできればと思っています。
“食とカルチャーのセレクトショップ” 寄(よせ)
― 1Fの寄についてお聞きしたいのですが、「食とカルチャーのセレクトショップ」をやりたいというのが原点だったのですか?
南 : いや、発想の元はもっとシンプルで。僕だったらですけど、「この場所だったら飲み屋とか食い物屋がなければ、洋服屋なんか年中行かないわ」っていう考え。ただ僕らはあくまでも洋服屋なんで、有名なシェフを雇ってお店をやるというのは、やれる気がしなくて。あと僕も京都に事務所があったり、あちこち行くけど、行くのは飲食店ばかりなんですよね。今の飲食関係って、面白い人たちが多いんですよ。
― 吉井雄一さんも同じようなことをおっしゃっていましたね。面白い若い人が、ファッションよりも飲食関係に流れているって。
南 : そうなんですよ。だからその人たちと一緒にできることはないかなと。そう考えるうちに、「セレクトショップみたいな飲食ってないよな」と思って。「寄」っていう名前にしたのは、それこそ寄り合いとか、みんなが寄り合うカルチャーの場所。僕が好きなお店って、自然に人が集まって、飲みながら新たな出会いがあったりするので。「寄、行ってみるか」って感じで使ってもらえたらいいなと。
― 「食とカルチャーのセレクトショップ」ということは、今後メニューも変わっていくんですね。
南 : そうですね、中身も色々変えていきます。期間限定とか、そういうのをいま企画中です。ただ、僕らも飲食店は初めてなので、とりあえずちゃんとできるようになってから次は考えますけど。
― 今回は京都で話題のそば屋、SUBAさんも入っていますね。個人的にも何度か行っているお店が東京に出来て嬉しいです。
南 : SUBAさんとは引き続きやっていくんですけど、蕎麦前で飲んで、蕎麦食って帰るって、東京のカルチャーなんですよね。ここは蕎麦屋と立ち飲み屋と角打ちが全部混ざったようなスタイル。ここにすごくいい音楽が入ればいいなと。他にも京都の僕が好きで昔から通っている店にも参加してもらいます。
― やっぱり京都なんですね。
南 : 最初はやっぱり僕とも仲が良くて、東京じゃ食べられないものをやりますけど、今後はまたいろいろ探して来ますよ。バイヤーなんで捕まえてくるのは得意ですから(笑)。今後はゲストイベントを増やしたいと思います。ファッション、食、音楽、アート、全部のチャンネルを繋ぎ込めるようなベースを作ってあるので、そこにどういうソフトをはめ込んで面白くして行けるかですね。
新業態のカルチャーストア、Vektor shop®
― そして1Fには新業態のVektor shop® も併設されました。
南 : ここはずっとやりたかったことなんですけど、“マジメに物作り”をするのをやめる考え方というか。
― どういうことですか?
南 : それはちょっと語弊があるかもですが、例えばニューヨークに行くとスケートショップがあって、アリもののボディにグラフィック載せて売ってる、みたいな店ありますよね。僕自身、最近はそういうところでしか買い物しないんですよ。そういうのをマーチャンダイズを略して“マーチ”って呼んでいたり、“ニックナック”って呼んだりするんです。ニックナックって、Supremeとかでよくやってる、「なんでこんなの作るんだ?」みたいなものあるじゃないですか。そうやって、「安価に雑貨を買う感覚の進化版」を作れないかなと。とはいえ、Tシャツのボディはまたイチから作ったり、マジメにやっちゃってますけどね(笑)。
― そこはさすが(笑)。
南 : 今ってこれまでの言葉で括れない面白い人が出て来ているんですよ。アーティストなのか、グラフィックデザイナーなのか、雑貨屋なのか、みたいな人たち。僕はそういう感覚がすごく分かるんです。だからここでは、アパレルや雑貨も、良いものを超低コストで作る努力をしてみようと。例えば高いバンドTって要らないじゃないですか。
― 要らないですね。そこに音楽やポスター、アートブックもあるという、面白い業態ですね。
南 : ポスターは大阪の(特殊ポスターショップ)SOONER OR LATERの方にお願いしたり、音楽は今はまだ古いレコードだけですけど、今後はカセットや、新たにコンピレーションのレコードを作ったりする計画もあります。あとはオーディオですね。ヴィンテージのオーディオや、ハイファイも好きなので。とにかく何かに縛られない、面白い方向にいく場所が欲しくて作った業態です。
― では今後はVektor shop®としても独自に展開をする可能性も。
南 : はい、もちろん。
「行かな分からんな」は僕の口癖
― 南さんはGraphpaperやFreshServiceをはじめ、フィジカルの店を出すことに積極的ですよね。今の時代はオンラインシフトや、メタバースに行ったりすることでビジネスをミニマルにする傾向もある中で、こうしてフィジカルにこだわる理由は何でしょうか。
南 : それは、絶対的に“足らない”からです。完全に五感に訴えかけるには足らないんです。デジタルなことに興味がないわけでも、大事にしていないわけでもないですよ。実際に遠くて来れない方もいらっしゃるので。でも、それは僕らのサービスの一つでしかないんです。今回のこのお店も“五感を刺激する”がテーマなので、デンマークのFRAMAの“香り”を2Fでスペース作ったり、僕の肝煎りの企画で、内田繁さんの家具を実際に触ってオーダーも出来るようにしているのも、この場所に来ないと体験できないからです。
― だからリアルな店舗にこだわる。
南 : お店に勝るものがどこにあるのか、逆に知りたいくらいですよ。僕自身もSNSで見たりして、いいなって思っても、実際に行くとがっかりすることもあるし、想像より良いなと思うこともあります。だから「行かな分からんな」っていうのは僕の口癖。やっぱり今のところ、体験に勝るものはないと思います。相手が人間である限りは、体験以上に優れているものはないので、積極的に店も出す。本当はそっち(デジタルシフト)の方が頭いいんだろうと思います。でも僕は、頭が悪いというか、興味がないんだと思います。ただお金が儲かればいいとか、そういうことに興味がないんで。どうせいつか死ぬんで、「やっときゃよかった」と思わない方がいいですしね。結果、失敗しようが自分の責任なので。まあ自腹ですから(笑)。
南貴之 | Takayuki Minami
1976年生まれ。1996年にH.P.FRANCEに入社。セレクトショップのCANNABISなどの立ち上げに携わる。2008年に個人としてalphaを設立し、1LDKの外部ディレクターとして活躍。2012年に株式会社alphaを設立。設立後、国内外の様々なブランドの PR 事業部、ショップのディレクションのみならず、ショップ・ブランドのディレクションのみならず、空間デザイン、イベントのオーガナイズなどを手掛け、セレクトショップでありブランドとしてのGraphpaper、FreshServiceを手がけている。
https://alpha-tokyo.com
https://graphpaper-tokyo.com
https://www.instagram.com/minamialpha/
[編集後記]
HONEYEE.COMでも連載を続けているし、さかのぼってEYESCREAMの編集をしていた頃から「目的地になる店」=デスティネーション・ストアは編集におけるマイテーマのひとつだ。今回南さんが代々木に作った複合店は、まさにデスティネーション・ストア。しかもこの近くに住んでいる人が羨ましくなるようなコンテンツも充実しているし、これからもさまざまなニュースを届けてくれそうだ。ひとつの店が街の空気を変え、街を面白くする。それはこれから先、代々木三丁目のエリアにも起こるかもしれない。(武井)